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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)5484号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

請求原因二は「原告、被告会社、および安宅産業の三者は、昭和五二年七月二九日、安宅産業の所有する被告会社の株式二〇万一六〇〇株(以下本件株式という)につき次のとおり契約(株式売却斡旋契約)した。

1 被告会社は、同年一二月末日までに本件株式を一株金三〇〇円(代金合計六〇四八万円)で被告会社の取引先またはこれができないときは証券会社に買取らせる。

2 原告は、同年一〇月一日をもつてこの契約上の地位を承継する。」というのであり、原告は被告に対し、この契約の履行不能責任を追求したのに対し、被告は「原告、被告会社、および安宅産業の三者が原告主張の日に安宅産業の所有する本件株式について原告主張のような合意をしたことは認めるが、右合意は、単に被告が「誠意を以つて」努力する旨を約したものにすぎず、当事者の任意の履行のみを信頼した努力条項ないし紳士協定であつて、法的な拘束力、強制力を有しない。」として争つたものである。

【判旨】

二株式売却斡旋契約の成立について

1 まず、請求原因二の事実につき、原告、被告会社、および安宅産業の三者が原告主張の日に安宅産業の所有する株式について原告主張のような合意をしたことは当事者間に争いがない。

2 そこで、右合意が法的に拘束力、強制力を有するような契約であるか、それとも任意履行のみを期待した紳士協定等であるかについて検討する。

当事者の立証活動が簡に過ぎ事実不明の点が少なくないが、<証拠>ならびに弁論の全趣旨による限り、次の事実を認めることができ、この認定を覆えすにたりる証拠はない。

(一) 安宅産業は、昭和四九年八月ころ水産部門の強化をはかるため、水産専門の中堅商社である被告会社と業務提携し、被告会社の株式の約四〇パーセントを所有することにし、そのころ被告会社の株式一〇万株を一株金一〇四〇円で取得し、さらに被告会社の主力株主であつた竹田起業に対する貸付金の担保として被告会社の株式を一八万八〇〇〇株引き取り、昭和五〇年二月には竹田起業の経営悪化によりこれを代物弁済により取得し、その後被告会社の倍額増資による無償取得などを得て、結局昭和五二年七月当時被告会社の株式を四六万〇八〇〇株所有し、これは被告会社の発行済総株式数の約四〇パーセントにあたつていた。右株式の取得価格ないし帳簿価格は一株金五二〇円であつた。なお、安宅産業は、その他に、韓国漁船に貸付を行いその漁獲物を扱う商権を有していた。

(二) しかしながら、安宅産業は、その経営悪化により、昭和五二年一〇月一日付をもつて伊藤忠商事株式会社と合併することになり、同年七月ころは安宅産業の財産上の清算が種々検討されていた。

所有する被告会社の株式は全部売却換金されることになつたが、被告会社の株式の価格が安宅産業の取得価格ないし帳簿価格が一株金五二〇円であつたのに対し、時価が一株金二五〇円程度であつたため、取得価格にできるだけ近い価格で売却換金することは困難を極めた。このため、安宅産業は引取先として被告会社に目をつけ、被告会社に対しそれまで商取引上の便益を供与してきたことや今後これを継続することもしくはしないことを仄かすなどして、株式の高価買取先をみつけることを迫つた。

これに対し、被告会社は、その発行済株式の約四〇パーセントに当たる株式が被告会社と関係のない第三者に散逸し株主対策が困難になることをおそれ、被告会社が自ら売却斡旋し被告会社と意を通じうる第三者に売却することを望んでいたが、売却斡旋の価格は当然のことながら時価に近い線を考えていた。

(三) 結局、安宅産業と被告会社は、右のようなそれぞれの事情のもとに会社内部での慎重かつ真剣な検討を経たうえ、両者間で種々激しい折衝をした結果、安宅産業の所有する四六万〇八〇〇株のうち二五万九二〇〇株を被告会社の重要な取引先である三井物産株式会社に安宅産業の有する韓国漁船に対する商権とともにほぼ時価の線である一株金二五八円で譲渡したほか、安宅産業の意向を無視して今後取引上にいかなる問題の生じるかもしれないことをおそれた被告会社が折れて前判示のごとく一株金三〇〇円で売却斡旋することで合意した。

3  右認定の事実関係によつて考えると、原告主張の合意はその合意自体の中には実際上被告会社の取得すべき利益はなく(本件株式が一株金三〇〇円を越えて売却斡旋に成功することは実際上全く考えられないことは一株金二五〇円余の時価および右2掲記の各証拠によつて明らかである)、合意自体としては安宅産業ないしその地位承継する原告にとつて一方的に有利な合意であるが、合意をするに至つた被告会社の動機、利害得失の判断過程からみれば、被告会社としては右合意をする必要性と実益があつたのであり、右合意は、法的責任の生じないような単に努力目標の設定、紳士協定等の成立であればみることのない企業間の真剣かつ熾烈な折衝の結果成立したものであるというべきである。従つて、右合意は、その成立過程等からみれば、任意履行のみを期待し、その不履行の場合には法律上の責任を全く問えないような紳士協定的なものとではなく、法的な拘束力、強制力を伴つた契約であるというべきである。

(塚原朋一)

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